座礁した船で星を見つづけた

心療内科への定期通院はきょうで最後になった。
通院のたびに履いていたお気に入りの白いスニーカーは気温が暖かくなってきて、アディダスからコンバースのローカットに変えた。ジーンズをロールアップしてくるぶしを出した。いまの季節にはまだ早いかもと思ったけれど、足元の地肌を通り抜ける風は心地よくて優しかった。相変わらず病院への行き帰りの電車ではドアの脇に立って、流れる景色をぼんやりと見つめている。もうダメだったころ、スマホにお気に入りの曲を詰め込んだプレイリストを作って、通院の行き帰りに延々と聴いていた。自宅に帰るまでの間、あの頃と同じように再生ボタンを押す。浮き上がってくるのは当時の心象の残り香だった。胸に吸い込んだ香りは記憶に変わっていこうとしている。