2023-01-01から1年間の記事一覧

一瞬だけの永遠を語れたなら

ときおり、空に飛行機雲をみた。ある日、青い空に飛行機雲と白い月が重なっていて、昼が明るい夜なのだとしたら、こういう景色なのかもしれないと思った。 ベランダに置いていたサンダルに小さな枯れ葉がくっついていて、手に取ったそれは可愛い抜け殻のよう…

nowhere now here

涼しい夜。鈴のような虫の鳴き声が心地いい。日没の時間は半月前からおおよそ1時間近く早くなった。毎年、夏の終わりは猛烈な暑さを残すか、あるいは台風が夏を連れ去り、季節を秋へと変えていく。年を追うごとに秋は冬の姿をして訪れるが、今年はどうなのだ…

Beauty is Within you

小雨の降る涼しい夜だった。自宅から1駅分だけ手前で電車を降り、歩いて帰った。誰もいない歩道や誰かがいた街灯、規則的に灯るマンションの照明、それらを写真に収めながら歩いていた。見えているもの、見ようとしているもの、なにを被写体にしているのか自…

ともだちの定義

10年以上の付き合いになる友人がいる。あるとき、老人になってもこんな風な関係でいられたらといいね。と彼女が言った。よくある話だと思うが、私はこの手の話が嫌いで仕方がない。誰かのみる夢や想いは曖昧で、いつからかその夢や想いが私に向かうとき、な…

「忘れてもいい」って言われた気がした

もちもーち。こちら地球星日本国シロ隊員。応答どーじょー。この星はとっても平和です。どーじょー。はいっ・・・はいっ、シロ隊員、全力で悪とたたかいます。以上、交信終わり。どーじょー。『鉄コン筋クリート 1巻』 - 松本大洋 主人公のシロがどこにも繋…

「ハイチーズ」って言ったはずなのに

風邪を引いてしまった。窓を開けて空気の入換えをしていると、窓の外から郵便配達の音や、小さな子供のはしゃぐ声が聞こえてきた。咳がひどく横になって目蓋を閉じる。やってこないと知っているものを待ちつづけるのはやっぱり難しい。 坂崎乙郎のエッセイで…

砕け散るところを見せてあげない

秋に満期退職になる。春が終わるころ、会社の同僚と再会した。所属は違って何度か一時的に接点をもった程度の関係だった。休職期間中は社会保険が振り込まれていて、同僚にとっては「私が働いたお金で生かされている」そうだった。相手は冗談だったし、私も…

「ただいま」とか「おかえり」を求めた日

長年使っていた茶碗を二つたてつづけに割ってしまった。一つは実家から持ってきたもので、もう一つは誰のためのものだったか。いずれ壊れてしまう「用」の物だからと数百円で新しいものに買いかえた。朝から天気がよく、春の水と陽気で洗ったスニーカーは見…

怒られない太陽

1月末から体調が悪化しなかなか好転しない。かかりつけの医院は担当医が退職してしまい、受診のたびに違う医師との問診になった。やり取りはほとんど定形化されていて、同じ話を違う医師の顔に同じ答えで語りつづけた。 部屋の窓から景色を見つめる時間が増…

忘れさせて、忘れないで

金曜日、雪が降った。天気予報はみぞれを伝えていたけれど、朝、外に広がっていた光景は幻想的だった。しばらく忙しくしていた友人から連絡があり、久しぶりにお酒を飲んだ。彼女は医療機関に携わっていて、長期間にわたって担当していた患者さんが先日、亡…

flavor of shadows

土曜日、終電を逃してしまい歩いて帰ることにした。初めて通る道ばかりで、どの道を歩いても人通りがなく、ずっと遠くの方まで見渡せるような透明感があった。 1時間ほど歩いてコンビニに立ち寄り、温かいコーヒーを手に外で休憩する。コーヒーを飲み込んだ…