暖かいところで眠るんだよ

郵便ポストを開けてみると迷子になった猫のチラシが入っていた。添えられた写真には、白い毛並みの子猫が窓際に置かれたクッションの上で、夕日を背にカメラを見つめていた。

仕事を終え、家路をたどる頃には辺りは真っ暗になっていた。陽が落ちた途端に人の気配が途絶え、照らすべきものをなくした街灯は、無人駐車場や雑草だらけの公園に影を落とす。あのチラシを目にしてから、私の影が街灯のそばを通り過ぎた回数は、あの子猫との出会いを失いつづけた回数になった。雨が降り、台風がやってきて、夜は喪失を強調するようになった。

私が出会いたいものたちは、実体のない影への眼差しに錯覚することがある。生き物の気配にすがって、ただただ秋の夜風にゆすがれてゆく。

家路のたびに出会うことのない気配を追いかけつづけ、冷蔵庫に猫のチラシを貼って数か月が経った。あの子猫はもうきっとあの街灯の下にはいない。それを剥がす”さようなら”だけが子猫を見つめている。